2015年10月19日月曜日

改正民法及び家事審判法規に関する執務資料 について

最高裁判所事務総局(1981)の資料。
冊子を返却しなきゃならないから先にこっちをあたっておく。


これは昭和56年の民法改正にともなって、実務をどうするべきかを通達したものである。
これが、子の監護については家裁で審判でやりなさいよっていう

最高裁判所第三小法廷 平成5 (1993)年10月19日判決
最高裁判所民事判例集47巻8号 5099頁.

これにつながっている(この判決で引用されている)。

その中身はどうなってるのかなとおもって、取り寄せてみた。
例の家裁月報をだしていた法曹會というところが頒布していた。


さて中身みてみると、もうこれはほとんどすべてが遺産相続のことばっかり。

子供のことが書かれているのは1頁くらい

現場判断でやれ、に近い。「解釈にゆだねられている」

ちなみに引き渡しについても、物品や金のことばっかりで、
子供をどうするのかについてはぜんぜん

どうしてそんななのかについては、ちょっと詳しく経緯がのってた
戦前の民法を新しい制度にするにあたって、拙速にやったから、不備だらけだと。
それを直すのになんとかがんばったんだけど、まだ穴だらけだと。

こんなぼろっぼろのをしかし、下敷きにして出した最高裁判決だったわけだ。


もうちょっとなんとかならなかったのかな。




ちなみにあの噴飯もののフレーズ、
科学的な調査能力を有する家裁うんぬんのオリジナルは、ここにありました。


どうして法曹って、自分たちが無知であることを知ろうとしないんだろう。

松本2011について

家庭裁判月報の平成23年9月、第63巻9号に、
「元大阪高裁部統括判事」の松本哲泓さんの論説があります。

子の引渡し・監護権者指定に関する最近の裁判例の傾向について

出た時期が微妙です。
民法の改正は、施行が2012年の4月だけど、成立は2011年。
論説の本文には触れてませんが、意識はしていただろう。

家裁月報って最高裁が出していたものだし、
いわゆるピア・レビューの仕組みはなさそうです(すごく厳しいのがあるのかな逆に)。

あらゆる審判は原則的に非公開なのですが、
この論説では未公開のケースがばんばん使われています。

そのお立場から見ることができたものを含めて38のケースを紹介したと。


こういうの、ただ傾向を見せるわけがないです。
意図があってやってるはず。
そこらへんをちょっと分析してみましょう。

2015年3月27日金曜日

家裁が嘘まみれなことについて

結局あれらは、つき放題ということなんだろうかね、と。

TEDに、Pamela Meyer: How to spot a liarというプレゼンがあって、
まあ見破り方とか教えてくれてるんですが、
そこでのとくに「なるほど」は、
嘘は、つくものとつかれるものの両方がいて成立するのだ、
後者も嘘に加担しているんだってことでした。

たしかに、相手にとって都合のいい嘘ほど、よく通るわけです。
バブルだって、あれは信じたい人が多いから、ああなってる。
「ひとは信じたいものを信じるのだ、真実をじゃない」。


連れ去られ側のいうことを一切無視して、連れ去り側の嘘を端から採用するのは、
そのほうが裁判所にとって都合がいいから、でしょう。
なぜ都合がいいか? ずっと、「継続性の原則」という、間違った仮説を
信奉してきたから。その仮説はアメリカのとある法学者が考えたもので、
彼は日本に来日してその自説をひろめていきました。本国ではそれは
調査データのもとに否定されて、以来かえりみられることがありません。
日本では(おそらく「裁判所が間違っていた」ことを認めたくないために)
まだ幽霊のように生き残っている。たいへん愚かしいことだが事実です。

騙されたがっている人に、都合のいい嘘をふきこむやつらがいて、
それが日本の家裁のうそまみれな状態をつくりだしています。
法律では、調査官の仕事は事実を調べることなのだけど、
彼らはその嘘に加担することを平気でしています。
いやむしろ、事実を調べるための能力に欠けています。
方法論ができていないし、手段もない、気構えもない。

人証の際に宣誓をして、それに違反したら罰則があります。
しかし調停でも審判でもそうした手続きはないですよね。

こうした状況が、家裁を嘘まみれにしていく。
その責任の半分は、嘘を信じたい家裁にあります。


ま、そんなわけで、家裁ではほんとうに目も当てられないような嘘が横行しています。
つかれた側はたまったもんじゃないけど、いちいち、傷ついたりしないほうがいいです。
あなたが相手をしているひとは、しょせん、その程度のひとだったということ。
冷静にひとつひとつ、つぶしていって、それは文書化しておきましょう。

2014年12月27日土曜日

配偶者に子どもを連れ去られた親の方に

あなたにDVの自覚があるのなら、これはあなたのためのブログではありません。
どこか別のところをお探し下さい。


さてたぶん、驚き、慌てふためいているところに、裁判所からの呼び出しが来ると思います。
それは婚姻費用の請求ではないですか?

あなたと同じような立場のひとが、年間に数万人ずつ新しく誕生しています。
以下は私の、感想戦のようなものです。
ちょっとビターです、反省がつまってるからです。
ご自分で判断して、使えそうなところをお使いください。


まず、ネットで探すと、団体がいくつか見つかります。
それらに加わって情報を得ましょう。

自治体・警察・婦人相談所・児童相談所には、あまり期待できません。
かれらは、裁判所が関与しているケースには、触りたくないのです。剣呑だから。
それでも、相談はしておきましょう。苦情を申し立ててもいい。
ただし、彼らを敵にしないように注意しましょう。

あなたの配偶者の行いは、日本では「灰色」です。
適法とも言いがたいけど、違法とも言いにくい状態です。
おそらく配偶者は、弁護士等と相談して、理論武装をしています。面倒です。
すると、まず自治体は動きません。学校そのほかもです。
しかし、現実に仕事をしているひとに、状況を知ってもらうのは良いことです。

信頼できる弁護士を探しましょう。それは、滅多にいません。
あなたは客単価が低い、効率の悪い客です。
それでも親身になってくれる弁護士は少ない。
探せなければ、自分でやるしかありません。勉強してください。
ぜんぶ任せても大丈夫な弁護士は、本邦にはたぶんいません。
裁判所で、いま自分たちがなにをやっているのかわからないようではダメです。
それを当事者能力に欠ける、といいます。かならず負けます。
勉強しましょう。

もし今からでも、間にはいってくれる人やカウンセラーがいたら、貴重です。
うまくお願いをしてみましょう。

配偶者や、その家族が、精神的におかしくなってませんか?
はっきりいえば、あなたの配偶者の行為は、正気の沙汰ではないです。
よっぽど思い切ったか、あるいは、単に狂っている可能性があります。
本人か、それを支えているおかしい人がいるのではないですか。
この種の事件で、相手方の実家が強く関与しているケースは多いです。
かれらは、自分たちの老後のために、人出がほしいのです。

残念ながら、係争がながびくうちに、その状態はどんどん悪化します。
放っておいても悪化したかもしれない。でも、裁判所でいろいろやるうちに、
「自分はあくまでも正しい」という妄想をこじらせて、手がつけられないほど
狂っていってしまうもののようです。

そうなったときに、子どもの安全が脅かされる可能性が大きいのです。
それを避けるためにも、家裁での紛争はなるべく短く、です。
あなたの精神状態も、いつまでも保ちません、たぶん。
係争を続けるのは、ストレスフルなんです。

さて、裁判所の機能には限りがあります。
そこは人を諭す場所ではありません。被害を取り戻す機能もありません。
子どもの監護に関しては、あまり触りたがりません。
事件数が多すぎてパンクしているのです。うんざりしています。
さっさと終わらせたがっています。

認めてもらうべきなのは、面会交流です。これで子どもに会えるようになります。
月に1-2回がいまの相場です。
それでいいからということにして、とにかく合意をとりつけることです。
早くしないと、子どもは相手に洗脳されます。あっという間です。
しかし、家裁での調停は、1か月に1回もおこなわれません。
家裁は、子どもを保護するための機能をもっていません。
あなたがやらなきゃ誰もやりません。

ほとんどのケースでは、これで面会交流ができるようになります。
子どもを拐うような人とは、婚姻関係の継続は困難でしょう。
しかし戻せるなら、それが子どものためではあります。
もういちど努力をしてください。
離婚はあとでゆっくりやればいいですし、裁判所を通す必要はありません。
(離婚届が勝手に出されたときに受理しないように、役所に申し入れをしておきましょう)。

相手方が面会交流を拒否するために、さまざまな嘘をついてくるかもしれません。
とくに、子どもが拒否をするからというのが、よく使われます。
そのときは、戦うべきだと思います。子どものためです。
おそらくいま、あなたの配偶者は深刻に病んでいます。
こうなる人が、いま年間に2500人くらいいます。
精神疾患の罹病率としても、こんなもんです。
お気の毒ですが、現実に向きあいましょう。あなたの相手方は狂っていて、
しかし裁判所はそれを確認する手立てをもっていません。
相手方の弁護士は、それに気付いていたとしても、相手方の利益のために動きます。
子どもの利益ではないです。弁護士を雇っているのは相手方です。
それが弁護士の行動原理です。

病んだ親が子どもを抱え込むと、回復不能な障害が子に残ってしまいます。
これを可能なかぎり避けるのが、あなたに課せられたミッションです。

戦うと決めたのなら、ちゃんと戦いましょう。
裁判所は真実をみてくれるわけではありません。
彼らは神様じゃないんだから、いろいろ期待してはダメ。
自分で勝ち取らないといけません。
泣いているヒマがあったら、戦略を考えましょう。

子の引き渡しと監護親の変更を申立てましょう。
これは残念ながら、まず勝てません。
しかし、紛争を受けて立つという意思表示になります。
家裁に、試行的面会交流をお願いしましょう。
調査官の立会のもとですが、子どもに会えます。仲良く、楽しくやってください。
まともに会えることがわかれば、裁判官は面会交流の審判を下します。
これには、ある程度の法的な拘束力があります。

それでも面会交流が行われないのなら、間接強制を申し立てましょう。
それでもダメなら、また引き渡しと、相手方の親権の一時停止を申し立てましょう。

しかし、どこかの段階で、ほんとは、相手方に医療を。
病気は、本人のせいではありません。本人も被害者なので、治せるところは。
そして、ひとり気が狂ったひとがいると、まわりは本当に困惑します。
まして、それが子どもを人質にとっていたら。
だから、その被害で子どもがめちゃめちゃになってしまう前に、
治療を開始したいところです。裁判所にはその機能はありません。


グッドラック。
あなたのためにではなくて、あなたの子どものために。
配偶者の気がふれていることに向き合わなかった、あなたにも責任の一端はあります。
そこは、背負っていきましょう。


追記

調停中にやっておくべきこと
裁判官へ正しい情報をあげていきましょう。

調停委員は裁判官に報告してくれますが、
ぜんぶ情報が行くわけではないですし、
報告内容を覚えていてくれるとも限りません。

また調停委員、おトシの方が多いです。いろいろ、忘れますわね。

弁護士は調停のあいだに書類を提出するのを嫌がりますが、
不調になって審判がでるまでに間がなかったりもします。
また、どこかの段階で調停案がでてくることもあります。
これは審判の内容の案でもあります。だから、審判になってから
陳述書だすようでは遅いです。

調査官調査が出てきたとき、彼らはたぶん聞き取りしかしないから、
相手方が言った嘘がそのまま出てきてたりします。

こういうの、放っておいたらダメです。
次々に陳述書をかいて出しておきましょう。
基本的に相手方にも開示されますから、不要な刺激を避けて、
しかし事実は事実として明らかにしていきましょう。

調停案にたいしてコメントがあるのなら、
それも文書化しておきましょう。
やっておかないと、調停案を受け入れたことになります。
まるで、最後の最後でワガママを言い出したので不調になった、みたいな構図に。
そこにどんな理不尽なことが書かれていても、
調停が成立すれば、法的な力を持ちますよ。

陳述書は書式がかなり任意ですが、ぐぐるといっぱい出てきます。
左マージンを大きめにとる、ページ番号をつける、捺印する。
弁護士さんがいれば、仕上げと提出は任せておけます。

面会交流の方法と意義
面会交流は、遊園地やゲーセンで遊んだり、映画を見たりすることじゃない。
本来それは、一緒に暮らすことの代用です。
非日常のなかでしか子どもと会えないのは、面会交流としては意義が薄い。

学校の行事って晴れがましいものだけど、
家で食事をするほうが何倍も重要。
宿題みてあげたりね。

子どもは本来、多くの人とふれあって成長するものだから、
連れ去られた子があなたの周りにいる人達と交流することも重要。

試行段階でそれらが満たされていないのなら、それは要改善です。
面会交流の条件を決めるときに、相手方にもとめていきましょう。

あと、子どもは巣立っていくものです。
大学にはいる18には、もともと、しょっちゅう会うのは難しくなります。
どのみち。いずれ。子離れはせねばなりません。
それができないのは、それはそれで問題。

いい関係を、それまでに築いておきたいですね。

2014年12月15日月曜日

社会科学と幼児の養育計画:全会一致の報告書

Social Science and Parenting Plans for Young Children: A Consensus Report

ぐぐると、いろんなところにPDFがおちています。
(たぶん、レビューたのまれたひとが上げているんだとおもう。)

なかなか、ありえないような仕組みのレビューです。
ものすごくたくさんの人がそれを押しているという
お墨付きででています。
要は、乳幼児が父親に宿泊面会をすることの是非を調べた
多くの研究例から、それはやるべきだとした、まとめです。
あまり父を全面にだしてないけど、当然、母がみているはずって言外の前提があります。

こんなのピアレビューがまわってきたら、何をいえばいいのかな。
いまちょっと全文を訳す時間がとれないんだけど。
要約と、一部だけ。


社会科学と幼児の養育計画:全会一致の報告書
Richard A. Warshak

概要
この論文では、2つの問題を取り上げる。ひとつは若い子供たちの時間を、ひとりの同じ親の監護のもとで過ごさせるべきか、両方の親の間でより均等に分けるべきかということ。もうひとつは、4歳未満の子どもが、毎晩同じ家で寝るべきか、両方の家に宿泊するべきか、である。両親が互いに離れて住んでいるとき、他に問題がなければ、4歳未満の子供でも両親の家を行き来するべきだという証拠を、熟練した多くの研究者・実務家たちが認めている。未婚や離婚の両親の間で父と子の関係が脆いことがよく報告され、複数の研究から子育てへの父親の関与およびドロップアウトの防止の因子として宿泊が特定されている。しかし宿泊について正味のリスクが報告されていない。以上をふまえて、政策の立案者や決定者は、父親宅に幼児を宿泊させないことが、父子の関係形成を台無しにする可能性があることを認識すべきである。乳幼児の定期的で頻繁な訪問、宿泊を含む、の開始を遅らせるべきだという証拠は得られていない。理論的にも実務的にも、ほとんどの幼い子供にとって宿泊つきの訪問が好ましいとする考えが、宿泊が子どもの生育に悪影響を及ぼすという懸念よりも、はるかに強い説得力を持っている。

110人の研究者と実務者がこの論文を読み、コメントを寄せ、改定を引き受けた。全ての細部はともかく、彼らはこの論文の結論と勧告に賛同している。彼らの名前と所属を補遺に掲載した。

# ここで、例外がちょっとあることが匂わされていますが、その部分。
# 本文の最後になります。

特殊事情
いくつかの状況は、通常と大きく異なるために、大半のケースで適用されるのと同じ一般的な推奨事項が役立たない。これらの状況は、親密なパートナーへの暴行歴、信憑性がある子どもへのリスク:ネグレクト・身体的・性的・心理的虐待、他方の親を疎外する行為・たとえば他方の親が監護しているときずっと不当に干渉すること(Austin, Fieldstone, & Pruett, 2013; Pruett, Arthur, & Ebling, 2007; Pruett, et al., 2012; Warshak et al., 2003)、子の誘拐歴、子どもの特別なニーズ(例えば、嚢胞性線維症や自閉症)、両親間の地理的な隔絶が含まれる。どちらかの親の転居を除いて、これらの状況の各々は、子供をまもるために特別な保護手段を必要とする。
転居
子どもをつれて片親が転居することは、子育て計画の実現性を大きく変えてしまう。また、子どもから他方の親を排除し、記憶を消し去ってしまうことを容易にする、とくに転居先が海外であるときは (Warshak, 2013)。愛着理論と研究から、子供が少なくとも3歳になるまでは転居を待つように勧告されている (Austin, 2010; Kelly & Lamb, 2003)。すでに述べたように、かたい親子関係をつくるためには、子どもたちは両親との頻繁なかかわりを必要とする。幼若な子どもたちは、長期の別離にたいして、弱い抵抗性しか持っていない。彼らの変化はより速いので、子どもとの同期を維持するためには定期的な接触が必要である。
Braver, Ellman, and Fabricius (2003)は、子どもが片親から遠く転居することの悪影響を発見した。それにもかかわらず、一方の親から幼い子供を長く分離したときの長期的影響に関して、実証的な研究はなされていない。調査者とセラピストが、問題のある子どもたちへの彼らの診療的な経験から、子どもの発達に関してのニーズに無頓着な子育て計画にたいして、懸念とガイドラインと表明している。これらの個々の観察に基づいた結果を一般化することについては注意を払う必要がある。セラピストが見るのは、状態がよくない子どもである。理論的におかしいとして採用を避けるようなプランを実行したときに、どのくらいの子どもたちが恩恵をうけたり不変だったりするのかは、わからない。

2014年11月18日火曜日

ひとつ前の記事に大きな間違いが

ごめんなさい訂正です。

ひとつ前の記事、Philip M. Stahlの著書であるとしていたのですが、これは間違いでした。
Stahlの本は国内の図書館にはなくて、でもペーパーバックになったくらい売れたらしく(へえ)
いま取り寄せています。
ただどういうわけか遅着の連絡が入ってるので、まだしばし読めそうにありません。
キンドル版のほうが安くかつ早いのですが、
デジタルデバイドなしゃけ父でございます。
Padのたぐいはいまいち使えてないのでございます。

なんにしても、お恥ずかしい限りです。
ご迷惑をおかけいたしました、お詫びして訂正いたします。
正しくは

Rohrbaugh JB, A Comprehensive Guide to Child Custody Evaluations: Mental Health and Legal Perspectives, Springer, 2008
でした。


m(__)m しゃけ父

2014年11月9日日曜日

Rohrbaugh によるマニュアル、19章の抄訳 (完了)

Philip M. Stahl、Conducting Child Custody Evaluations、SAGE Publications, Inc (2010)

##### ↑ これ取り違えでした、申し訳ないです。
正しくは、
Rohrbaugh JB, A Comprehensive Guide to Child Custody Evaluations: Mental Health and Legal Perspectives, Springer, 2008
こちらになります。

19章 親による子どもの誘拐

原文の雑なPDFはここ
Word版ダウンロード 

親権評価者はときに、片方の親からこう訴えられることがある。いわく、相手方が面会の際に時間通りに子どもを返さない、または「州を超えて連れ去って返さないぞ」と脅す。こうした主張を評価するためにも、親による子どもの誘拐の特徴、リスク、心理的な影響を理解することが重要である。

定義と頻度

親による子どもの誘拐(拉致、かどわかし、親権の妨害などとも標記される)とは、親や家族が子どもと面会する権利ないし親権に反して、子どもを取りあげ、引き離し続け、あるいは隠すことと定義される。研究上または実務上、これらは軽度(広い意味での誘拐)と重度(操作対象になる)に分けられる(Chiancone, 2001)。

軽度

年間に354,100件の、
親権の合意、法令、そのほかに違反して子どもを連れ去る
法令で決められた、ないし合意した時間を過ぎても子どもを返さずに、一晩以上戻さない
事件が起きる。

重度

年間に203,900件、次にあげる項目に一つ以上あてはまる事件が起きる。
・子どもを連れ去ったことまたは居場所を秘匿する(44%)
・州外に連れだし、連れ戻すことを困難にする(17%)
・一方の親に会わせまいとする(76%)
・監護状況を永続的に変えようとする(82%)

ここで注意したいのは、ほとんど半分(46%)のケースで、残された親は子どもがどこにいるのかを知っているか、誘拐の状況を知らされていないことだ。そこで、これら親たちは、子どもが行方不明になっていると認識しないことがある。4割ほどの親は、様々な理由から、この誘拐に関して警察に連絡していない。この消極的な態度もある程度は理解できる、なぜなら多くの警察署はこれらの案件を自分たちでは処理せず、地裁やその他の機関へと行くように指示するからだ。

誘拐された子どもたちは、かなりまちまちな期間、親と引き離される。一日以内(23%)、一週間以内(46%)、ないし一ヶ月以上(21%)。この1999年の全米調査の前までに、94%は返されている(Hammer, Finkelhor & Sediak, 2002)。

誘拐される子どもの特徴

年齢

2-3歳の子が最も誘拐されやすい。かれらは運びやすく、隠しやすく、言葉で抗議することも少なく、自分たちの情報を他の人に説明できない(Johnston & Girdner, 2001)。全米調査では、44%の誘拐された子どもは6歳以下で、79%が11歳以下だった(Hammerら 2002)。

性別

男児も女児も同程度に誘拐される(Hammerら 2002)。

人種

人種による偏りはない(Hammerら 2002)。

誘拐する親の特徴

誘拐がおきる家庭は親同士の葛藤が強い状態で、その半分が別居から離婚への過程である(Chiancone, 2001)。実際、親権の評価中に誘拐が起きることは多く、実際、単発・くりかえしの誘拐が、裁判所が調査を命ずる理由であったりする。そこで、誘拐が懸念されるハイリスクな家庭を見つけ出すことは重要である。

誘拐は様々な人々が起こすが、研究によって、その間に共通性が見つかっている。まずそれら共通性をひとつずつ説明し、6パターンの誘拐親のプロファイルにそれらがどう関わるかを見る。そしてこれら研究が指摘する誘拐の危険因子について解説する。

他方の親への態度

誘拐親は、他方の親の子どもにたいしての価値を否定したり無視したりしがちである。 なぜ、他方の親と親業を分担すべきなのかを、認めようとはしない。 (Johnston & Girdner, 2001)。

誘拐の動機

誘拐親の一部は、より裁判に有利な州を探して、あちこちへ移りまわる(米国では州ごとに司法も法も独立しているから)。これは全米で統一のUC-CJEA法(2002年)や、その前身のPKPA法(1980年)が全ての州で批准されるまで流行していた。

誘拐親の一部は、復縁を迫るないしやりなおす意図をもっていて、別の親は残された親を罰したり傷つける目的をもち、また別の親は親権や面会の権利を失うことを恐れている。ひどいケースでは、誘拐親はパラノイア性妄想をもっていて、残された片親の悪い・恐ろしい性質を信じこんでいたり、法をまったく無視するパーソナリティ障害をもっている(Chiancone, 2001)。

一部の誘拐親は、子どものことを気遣っていて、残された親からの虐待やセクハラ、遺棄などから保護しようとしている。実際25-50%の誘拐のケースで、児童虐待やDVの主張がある。これらの主張は連れ去り親がすることが多いが、残された親から、または両方からということもある。

DV

誘拐が子どもの保護のためだったという訴えは頻繁になされるが、しかしこれが正しいものとも限らない。誘拐者は、残された親よりももっと暴力的であり得る。たとえば75%の誘拐父と25%の誘拐母は、暴力的な行動をとったことがある(Grief & Hegar, 1993)。より高いDVのレベルが誘拐を誘発するわけではない;Johnston(1994)はDVのレベルが、誘拐があった家庭と、激しい法廷闘争をしている家庭で違わないことを報告している。

就労状態と社会的な地位

カリフォルニア州での50の誘拐家庭と、57の誘拐はないものの激しく対立している離婚家庭を比較することで、JohnstonとGirdner(2001)は貧困に関連した一群の因子をみつけだした。誘拐親はより貧困で、失業していて、若く、未婚で、小さい子をもち、犯罪歴をもつ傾向があった。誘拐親は経済的・精神的な支援を海外から受けている傾向があり、これは誘拐親のなかに、移住してきてからの日が浅い人が含まれがちであることを示唆している。海外からの支援はさらに、誘拐が異文化間結婚や国際結婚で起きがちであることとも関連するだろう(Chiancone, 2001)。

JohnstonとGirdner(2001)はまた、ほとんどのカリフォルニア州の誘拐親が、それが法律やモラルに反する行為だとは考えず、その行いを法務長官のオフィスに関わるようになってからでさえ変えようとはしないことを発見した。

誘拐を支援する人々

ほとんどの誘拐親は社会的なネットワークによるサポートを受けている。家族、友人、社会的なコミュニティ、 カルト的なグループ、反社会的な地下組織。このサポートは実務的なサポート(金、食料、宿) にかぎらず、誘拐という違法性の高い行動を正当づける動機やモラルのサポートにもおよぶ(Johnston & Girdner, 2001)。

性別と子どもとの関係

全米の調査では、誘拐親の2/3が父である(Hammer ら2001)。子どもとの関係は
・生物学的な父    53%
・生物学的な母    25%
・祖父母       14%
・きょうだい、おじおば、母の愛人    6%

カリフォルニア州の研究で、JohnstonとGirdner(2001)はそれぞれ父母ともに同程度に誘拐をするが、タイミングが異なることを発見した。父は何の親権の決定もされていないとき、母はそれが裁判の問題として扱われてから、誘拐する傾向があった。

誘拐の場所と季節

63%のの誘拐が、誘拐親が適法な状態で子どもを監護しているときに起きる。つまり、定められた時間内に子どもを返しそこなった場合である。子どもたちはその誘拐のまえ、家か庭にいる(36%)か、だれかの家か庭にいる(37%)。子どもが学校やデイケア(7%)や公共の場所(8%)から誘拐されるのは珍しいことだ。35%の誘拐は6,7,8月におきている。これはおそらく、子どもが夏のあいだを非監護親と過ごし、夏の休暇にでることと関係するのだろう。

子どもを誘拐する親のプロファイルと危険性

プロファイル1 予告または実際の誘拐があった場合

 誘拐を疑う証拠がある場合、ないし誘拐の前歴がある場合、逆に面会を行わない場合には、リスクは高い。
そのほかのリスクファクターは
・その親が失業している、ホームレスである、地域との情緒的・経済的な絆がない
・誘拐をするための準備があること、協力者の存在
・預金を引き出す、金を借りる

この場合、裁判所は特別な介入をしなければならない。

裁判所による命令 監護親の指定、面会交流の詳細な時間、受け渡しの日付と場所の指定。監護親に、どの裁判所がどの管轄を取り仕切っているかの情報を、他方の親がそこのエリアから出てしまうまでに教えておくこと。命令は、その条項に違反したときにどう扱われるかまで明示すべきこと。両親はそれぞれその親権に関する命令書のコピーを常に携帯すべきこと。

パスポート 裁判所の命令は、パスポートと出生証明書の発行機関に提示することができる。両親ないし裁判所がそれを認める書類を提出しないかぎり、その親がそれらを発行しようとした際には、親権をもつ親に通告するように願いでることができる。その子どものパスポートにも、その旨の許可が必要であることを明記できる。それら子どもと両親のパスポートは、中立な第三者に預からせることができる。

抵当 裁判所は、それら親子が休暇のために米国を離れる際には、抵当を請求できる。

通知 親権に関する命令のコピーを、学校の関係者、デイケアの施設、医療関係者に、子どもを引き渡さないこと他、どんな子どもと非監護親のことをふくめ、通知されるべきである。

刑事責任 誘拐を幇助・教唆する親戚やそのほかの人々に、刑事責任について警告されるべきである。もしかれらが幇助・教唆したときはほとんどの州で重罪になる。

監視つき面会交流 たいへん厳しく、お金もかかるが、くりかえしておきる重度の誘拐の際には用いられる。

プロファイル2 誘拐親が、児童虐待があったことを確信していて、社会的なサポートがある場合

もし親が、虐待がおきていたことを信じこんでいてそれがこれからも起きると思い込んでいる時、親は子どもを救わねばいけないと思うだろう。これらの親は、裁判所の人々がかれらの訴えを真面目に聞かないとおもったり、あるいは調べるのに失敗していると思うだろう。しばしばこれらの親には支援者がいて、支援者は自分たちの利益のために動く――それは家族のだれかだったり、親が新しい身分を手にいれるのを手助けし隠れ場所を提供する地下組織などだったりする。
こうしたケースへの介入は、子どもたちを虐待と誘拐の両方から保護せねばならない。

・介入 慎重で丁寧な調査は、訴えている親を安心させ、落ち着かせるだろう。

・監視 訴えられている親(おそらく問題はないとき)を守り、子どもを虐待から護るために、調査中の面会交流には監視をつけるべきである。これは子どもがとても小さくて、親の訪問を怖がっているときにも有効である。

・里親 もしどちらの親やその家族ともに重篤な精神疾患であると診断されたときは、調査中は子どもは中立な第三者がみるべきである。その際、面会は監視つきでおこなうべきだ。

プロファイル3 片親が妄想性パラノイド障害の場合

この診断は珍しい(訳注)が、これに該当する親は通常もっとも危険で恐ろしい誘拐者になる、とくにDVの前科があったり、精神病歴があったり、児童虐待の前歴がある場合は。 通常かれらは離婚によって打ちのめされていて、相手方からひどい扱いをうけたり搾取されたと信じこんでいる。 復縁を望んでいたり、逆に復讐を夢想していることもある。このプロファイルでは、片親がはなはだしいパラノイドを示し、配偶者に道理のない信じこみや行動をし、あるいは配偶者に病的な妄想を抱く。配偶者が自分自身や子どもを傷つけるか、その計画をもっていると訴える。病的な親は、子どもを一個の人間だとは認識していない。むしろ、自分と融合した被害者として扱う(このとき、一方的な判断で子どもを救おうとする)か、憎むべき相手方の一部として見る(このとき、突然に遺棄したり殺害したりする)。 こうした極端なケースでは、介入は子どもと、精神病的でない親の保護に焦点をあてる。

・監視つき面会 精神病的な親には特に安全に配慮した施設を用い、とくに子どもとの関係は綿密にモニターしながら行う。

・面会の一時休止 病的な親が次のことをくりかえして面会のルールに違反するときは中断するべきだ。(1)他方の親を侮蔑すること(2)子どもや相手方の情報を集めようとすること(3)子どもを脅したり、物理的に傷つけること

・安全なプラン 監護親は、重大なDVのケースと同様に、安全な面会のプランの策定のために手助けを必要とするだろう。

監護親が精神障害者である場合は、その状況はより危険である、訴訟や親権の調査のプロセスは誘拐や暴力を引き起こす可能性があるからだ。そこで次のことが必用になるだろう。
・裁判所の命令 による緊急の精神病の調査

・一方だけの聴取 (精神病的な親には知らせないで)精神病と親権の詳細な調査が終わるまでのあいだ、子どもを一時的に監護するために

・守秘義務の破棄 関係する全ての専門家とこのケースについての情報を共有するために

訴訟後見人、調査官、ペアレンタル・コーディネーター による家族の監視と、裁判所の命令が実行されていることの確認が必用になるだろう。

プロファイル4 誘拐親が深刻な反社会性障害である場合

もうひとつの少ないケース(訳注)反社会性障害の親は、あらゆる権威――司法システムも含む――を軽蔑してきた経歴と、法律をやぶることに特徴がある。 彼らの他者への関係はいつも利己的・搾取的であり、相手を操ろうとする。 彼らは、自身がより優れていて、そう考えるべき資格をもっているという大げさな信念をもっていて、 他者をコントロールする一方的な欲求をもっている。 妄想性パラノイド障害の場合と同じく、反社会性障害の親も子どもを、自分とはことなる願いや権利をもった人間だとは考えない。 その結果、彼らはしばしば子どもを、明らかに復習の手段、罰、ないし配偶者からの戦利品として扱う。彼らは誘拐やDVを刑罰の一種であると考える。

この状態の親への介入は、かつてのパートナーと子どもを保護することに焦点をあてる必用がある。

・面会交流 これは中断するか、監視つきにすべきだ。

・懲罰 親権にたいする命令に違反があれば、罰金や懲役を科すべきである。

・守秘義務があるセラピー療法を避ける もともとこの患者はセラピーに必用な、カウンセラーとの関係をつくることができない。むしろ、守秘義務を逆手につかって、他人(カウンセラーを含む)を支配しようとする。

・ペアレンタル・コーディネーター による長期間の家族の監視が必用である。

(訳注) このもとになったJohnstonらの調査結果によると、70サンプルのなかの3件ずつが、妄想性パラノイド障害と反社会性障害にそれぞれ当てはまっていた(4%)。これをもとにして二項分布モデルで信頼区間を推定すると、罹病率の95%信頼域は1から12%の間である。ちなみに、より新しい精神病のマニュアル(DSM-5)は、一般の人々のなかに、それぞれ数%ずつの罹病率を推定している。また高葛藤な夫婦を調査したJohnstonの別の研究では、2/3という高率でパーソナリティ障害が観察されている。調査方法によって罹病率の推定値は変わるが、こうした集団のなかではこのような疾病はさほど稀なものではないだろう。またDSM-5では、反社会性障害患者がかならずしも法に触れないことを紹介している。前科を持つものも多いが、必須の要素ではない。

プロファイル5 異文化間の結婚の場合

異文化間の婚姻をした親たちは、別居と離婚過程の精神的な支えとして、彼らの民族ないし宗教のルーツに帰りたがることがある。国外にいる大家族と深いつながりがある親が深く悩んでいるとき、子どもをその出自の文化のなかで養育するように試みることがある。

もちろん、全ての異文化結婚の親が誘拐を試みるわけではない。こうしたリスクがあるのは(1)出自の文化、地元、家族を過度に理想化する(2)米国の文化に反対する(3)子どもの多文化な立場を認めない親である。もしその親の出自が「国際的な子の奪取の民事面に関する条約」(ハーグ条約)に加盟していないとき、子どもを取り戻すのは、不可能ではないにしても困難である。(以下、米国内の事情であるので省略)

プロファイル6 司法によって疎外されている親

JohnstonとGridnerは、親が米国の司法によって不当に人権を損なわれていると考え、親族が家族問題を解決しようとしているとき、誘拐が起きやすいことを発見した。

・貧困と低学歴 38%の親は貧困で、低学歴で、親権や誘拐に関する法的知識を欠き、親権の訴訟を正常におこなわしむる法的な説明も精神的なカウンセリングも受け付けない。

・犯罪歴 50%の誘拐親と40%の残された親には逮捕歴があり、家裁がかれらの窮状に対応してくれるとは考えていない。

・男女同権の法律への反発 なんらかの民族、宗教、分化のグループに属する親は、子どもは母とその親族が世話をするべきだと考えている。

・DV被害者 DV被害者は誘拐をするリスクがある、とりわけ、裁判所が彼らを保護しなかった場合に(訳注)。彼らが誘拐をした場合、加害者はそのことを強調して、DVについて印象を弱めようとし、また被害者をコントロールしようと企むだろう。

・司法から疎外されている親への介入 そのほかの、社会的・経済的に不利な状態にある親と同様に、焦点は教育と公共サービスにある:
法的な相談と弁護
信頼できる精神的なカウンセリング
公共サービスにつなぐ助言
関係する家族と社会的ネットワーク もまた短期間の介入対象となるべきである。

(訳注) DVが誘拐を惹起するというこの推定は、先に述べられたJohnstonらの調査結果では確認されていない。

親による誘拐の危険因子

以下に、誘拐がおきる可能性が高まるファクターについてまとめる。これらを使って考えるにあたって、 親権あらそいの際に、虚偽の誘拐が、虚偽の児童虐待や虚偽のDVと同じように訴えられる可能性を心に留め置くこと。 よりたくさんの因子があれば実際に誘拐するとは限らないし、それがおこったとも限らない。これらは可能性を示している、 それを念頭におきながら、ケースごとに詳細を調べていくべきだ。

ボックス73
誘拐の危険因子

誘拐親の特徴
・他方の親を、子どもに無価値か、脅威だと考える
・他方の親にたいして不合理で病的な妄想を抱く
・反社会性障害―あらゆる権威を侮蔑する
・社会との経済的・情緒的なつながりをあまり持たない
  就業していない・ホームレスである
  貧しく低学歴である
  若い
  未婚
  犯罪歴
・別の地域ないし国とのつながりと支援
・男女同権への反発
・誘拐への支援の存在
誘拐される子どもの特徴
・6歳以下
・男女を問わない
・人種と民族を問わない
状況の因子
・子どもへの性的ないじめの主張
・DVの主張
・異文化間の婚姻
・誘拐の計画や脅し
・預金の移動、引き出し、借金
・子どものパスポートの発行ないし隠匿
(ボックス ここまで)

誘拐による心理的な打撃

誘拐や、誘拐するという脅しは、家族システムに混乱を招く(または、誘拐は混乱の帰結でもある)。 予定した時間を守らない親をもつ子どもはしばしば、恐れ・怒り・混乱を抱えている。 多くのこうした親は他方の親を口汚く非難し、別の親と会ったり話したりできないように脅したり、その親のもとに返さなかったり、監護に関する他の約束も反故にしたりする。 連れ去られた親もひどい不安・激怒・恐怖・抑うつを経験しながら、たいへん怒っている。

もっともよく見られる違反は、一時間か二時間の遅れか、または家族の記念日や祝日への子どもの参加の制限である。 これらの違反は、法的・研究上の誘拐の定義である、一晩より長いもの(Chiancone, 2001)に比べれば軽度である。しかし 1999年のNISMART-2研究ではもっと厳しい定義「連れ去って手元に置くことに、隠す・闘う・法でみとめられた権利を損なわせる意図があること」 (Hummer ら2002)とされている。誘拐が精神的にあたえる衝撃は、誘拐に力が使われる、子どもが隠される、誘拐が長期にわたることでより大きくなる (Chiancone, 2001)。

誘拐された子ども

複数の研究で、誘拐されてから監護親のもとに戻された子どもの精神的な適応を調べている(Chiancone, 2001)。 これらの研究は、全ての子どもたちになんらかのトラウマがあったが、特に長期にわたる誘拐で、ずっと悪い影響があった。 1.長期にわたる誘拐の被害者は、居場所を特定されないために転々としていたため、不安定な生活を余儀なくされている。 2.数週間以内であれば、子どもたちは元にもどれるという希望を捨てずにすむので、この経験を冒険の一種とかんがえることができ、誘拐親にたいして過剰な忠誠心を抱くことがない。 3.小さい子どもは徐々に残された親のことを忘れるが、大きな子どもは混乱し、両方の親を憎むようになる――誘拐親にたいしては、他方の親と引き離したことにたいして、そして残された親にたいしては、救いだせなかったことにたいして。

誘拐された、あるいはその脅迫を受けてきた子どもの精神病理的な調査によると、子どもは残された親に対して悲痛と憤怒を経験し、 不安を含む抑うつや、摂食障害、睡眠障害、泣き叫び、気分変動、病力的行為、恐怖の兆候を示す。ほかの誘拐のトラウマとしては、人を信じられないこと (特に権威ある大人、親戚にたいして)と社会的な引きこもり、同僚との関係が希薄になること、抑うつ(親指をしゃぶる・執着行動)、 大人との親密な関係をつくるのが困難になることが含まれる。

誘拐された子どものトラウマのひどさは、子どもの日常が損なわれた度合い、何が起きているかをどれくらい認識しているか、 親間の葛藤の度合いと関係する。先の2つの因子は子どもの年齢と関連する;より年齢がたかいほど、よりトラウマになりやすい。 (訳注) 男の子のほうがより適応が悪くなることも知られている。

残された親

子どもを誘拐された親もトラウマを受ける(Chiancone, 2001)。彼らの多くはよく眠れず、喪失感と激怒を経験する。 約半数は食欲をなくし、不安、深刻な孤独を感じる。こうした状態は、子どもが帰ってからもより強くなることがある。 子どもとの再統合はストレスフルである。また親は再び誘拐されることを恐れる。

残された親は経済的な痛手も負う、子どもを取り戻すコストが高いからだ。15年前は子どもを探すのにかかる平均的な費用は 国内なら8千ドル、国外なら27千ドルだった。現在はもっとかかるだろう。あらゆる所得階層で、親は最低でも彼らの年収分の費用を支払わねばならない(Chiancone, 2001)。